研究科長ご挨拶

国立大学法人長崎大学大学院
熱帯医学・グローバルヘルス研究科長
北 潔

 「健康」は世界中の誰にとっても,かけがえのないものです。それは地球自身にとっても同じです。「健康」を「科学」としてとらえ,「いのち」をいかに尊びつつ,人類の持続的な発展をめざすのか? 21世紀に入ってあらゆる分野で急速にグローバル化が進み,様々な要因が複雑に関係し合う現在においては,この地球規模の課題を解決するための公平な視線で現状を充分に理解し,具体的な方向性を示しつつスピード感を持って実践して行く事が必須です。

 熱帯医学・グローバルヘルス研究科は,問題をかかえながらも発展をめざしている国々の人々と共に,世界の健康問題の解決に直接貢献する人材を育成することを目的としています。このようなグローバルヘルス人材は世界で不足しているにもかかわらず,特に大規模な公衆衛生大学院や熱帯医学分野の教育機関がほとんどなかった日本ではこの分野の人材を十分に教育し,供給してきませんでした。

 この問題を解決するために,長崎大学は熱帯医学研究所に代表される熱帯医学の教育・研究を基盤とし,臨床経験を持った医師が熱帯医学の基礎と臨床,熱帯公衆衛生学・疫学の基礎を系統的に学ぶ「医歯薬学総合研究科・熱帯医学専攻(修士)」を2006年に設立しました。これによって日本人医師にもはじめて1年で熱帯医学修士を取得する道が開かれました。この新しい試みとともに,地球規模で健康問題を考える「グローバルヘルス」の視点の重要性に鑑み,国際保健学の科学的・経験的・思想的知見を理解したうえで,発展途上国の病苦や不健康,不衛生を実際に改善し,人々のwell-beingに貢献する実践をめざして,2008年に「国際健康開発研究科」を設立しました。ここでは衛生・公衆衛生学の知識以外にも,地域の自然環境や,政治,経済,社会,文化,歴史への洞察力を養う教育が行われてきました。この二つの大学院における教育・研究で多くの若者達が巣立って行き,世界中の現場や国際機関,また大学などのアカデミアや研究所で活躍しています。

 しかし世界の動きはますます早くなり,特に「世界の健康」を考える時,さらに高度の教育・研究が必要である事がはっきりしてきました。2013年12月に西アフリカではじまったエボラ出血熱,なかなか終息しなかった韓国の中東呼吸器症候群(MERS)の例でも分かる様に,本当に「地球は一つ」なのです。そこで2015年4月,これらを発展的に統合した「熱帯医学・グローバルヘルス研究科 グローバルヘルス専攻」が新たにスタートしました。教育はすべて英語化され,さらに高度なグローバルヘルス人材の育成をめざしています。グローバルヘルス専攻には,熱帯医学コース,国際健康開発コース,ヘルスイノベーションコースのそれぞれ特色あるコースが設置され,各学生の多様な学びと経験,そして研究と実践の要求に応えます。また,2018年4月(10月学生受け入れ)から博士後期課程を設置し,国立国際医療研究センターをはじめとする国内の諸機関,そしてこの分野で世界をリードしているロンドン大学衛生・熱帯医学大学院との連携により,真の世界レベルの教育を実施し,教育と実践と研究を統合させた発展的教育によるグローバル人材の育成に挑戦します。

 本研究科はこのように非常に若く,新しい大学院です。そして,大学院生もスタッフも多国籍であり,多様性を尊重しつつ,強力なこの分野の核になって行く事を期待されています。江戸時代,長崎は諸外国への「窓」でしたが,これからは「発信地」として地球のあらゆる健康を支え,産まれた国によって子供達の将来が左右されてしまう事のない,本当の意味での「グローバルスタンダード」をみんなで築き上げて行きましょう。

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